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最高裁判所第一小法廷 昭和56年(行ツ)200号 判決

大阪府茨木市春日一丁目一二-三

上告人

影山孝

右訴訟代理人弁護士

川崎裕子

北尻得五郎

大阪府茨木市上中条一丁目九-二一

被上告人

茨木税務署長

多鹿秀夫

右指定代理人

山田雅夫

右当事者間の大阪高等裁判所昭和五五年(行コ)第二八号所得税更正処分取消等請求事件について、同裁判所が昭和五六年九月二四日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人川崎裕子、同北尻得五郎の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものであって、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤崎萬里 裁判官 谷口正孝 裁判官 和田誠一 裁判官 角田禮次郎 裁判官 矢口洪一)

(昭和五六年(行ツ)第二〇〇号 上告人 影山孝)

上告代理人川崎裕子、同北尻得五郎の上告理由

一 原判決は、経験則に違反し、審理不尽、理由不備の違法がある。

(一) 原判決は、「中井に対して内田が担保なしに金一六〇〇万円に達する如き融資をなす如きは、社会通念上著しく不自然という外はない」と断ずる。しかしながら右社会通念は、一般のあえていうなら裁判官の社会通念であり、本件を判断すべき社会通念は「宗教」という特殊の世界における通念を基準とすべきものである。内田と中井とは天理教で結ばれた間柄であり、また影山と中井とは天光教で結ばれた間柄である。それゆえ影山は、未知の人物である中井から保証金も採らず、間借りをさせていたのであり、多類の債務につき担保を供したのである。それは、一般の社会通念からは推し測れないものである。

さらに、右「一六〇〇万円に達する融資をした」と証言する者は内田のみであり、上告人は一審判決説示のごとく、「中井が内田に支払うべき出資金及び利益分配金の類は多類なものとなって」おり、「中井、内田及び内田の使用人の訴外近藤義男の三者が協議し、メモ等により中井が内田に支払うべき出資金及び利益分配金の総額を金一八、〇〇〇、〇〇〇円と確定」したと主張するのである。一八〇〇万円の中には相当多額の利益分配金が含まれており、「一六〇〇万円に達する融資」をしたものではない。原判決は内田の証言(内田は影山に一六〇〇万円に達する融資をした)の一部を採用しすなわち上告人の主張の一部を否定しつつ、それを前提として上告人の主張が「社会通念上著しく不自然」と決めつけており、全く不可解である。

(二) さらに原判決は、中井の役割に何ら言及していない。原判決は「内田が被控訴人に対し、不動産の転売等をなす資金を、その利益の分配を内田になすことを約して被控訴人を債務者としておよそ金一六〇〇万円を融資したが、被控訴人がその返済に窮するようになったため、融資額に利息等を加えて金額を金一八〇〇万円として被控訴人所有にかかる別紙(一)の物件目録記載の土地建物について、別紙(二)の登記目録記載の所有権移転請求権仮登記、抵当権設定登記、停止条件付賃借権設定仮登記を経由した‥‥(略)‥‥昭和四七年九月二九日に内田と被控訴人及び中井との間に示談が成立し、示談書(甲第一号証)が作成された」と認定する。しかし、右認定には中井が右示談において上告人とともに、内田に対して連帯して金一八〇〇万円の支払義務及び日本貯蓄信用組合に対して二七三万六八七一円の支払義務があることを認めなければならない理由を何ら述べていない。右認定では上告人が債務者として、所有権移転請求権仮登記等を負担し、突然上告人と内田の外に中井が加わって示談書を締結するのである。中井が示談書において連帯債務者として加わらなければならないのは、何故か、これは上告人が一審以来主張している通り中井が主債務者であるからである。そして甲一号証に「登記簿記載の」という六文字を加入したのは何故か。原判決は「その示談書によれば『‥‥(略)‥‥』とする内容の記載がある」とし、示談書記載の示談が成立したと述べていないことは、右判決の「不完全さ」を露呈するものである。中井は、被上告人が主張するように、上告人の「代理人」であるのか上告人が主張するように「主債務者」であるのか何ら認定せず、登記簿や示談書等書証間の齟齬について、何ら理由を付していない。

(三) さらに原判決は、「被控訴人は、昭和四一年一〇月一八日に訴外生金株式会社からその不動産業の事業資金として金一五〇万円を借受け、別紙(一)の物件目録(一)及び(六)記載の土地建物について根抵当権を設定して担保に供した外、昭和四一年一一月四日に訴外松井悦太郎から債権額金一五〇万円を借受け、右目録(一)及び(六)の土地建物について根抵当権を設定して担保に供していたが、訴外組合から金三〇〇万円を借入れるにあたって、右訴外生金及び訴外松井悦太郎の根抵当権設定登記等をいずれも抹消のうえ、抹消登記の日と同日の昭和四二年四月一九日付で、訴外組合の前記抵当権設定仮登記を了しているものであることが認められ、右認定を左右する証拠はない。右事実によれば、訴外生金及び訴外松井悦太郎から金員を借入れた債務者は、被控訴人であり、右両名への返済に迫られて、被控訴人が訴外組合から金三〇〇万円を借入れることになった経緯を如実に物語るものという外はない」と認定するが、これまた経験則に反するものである。被上告人でさえも、右両名への返済に迫られて、被控訴人が訴外組合から金三〇〇万円を借入れることになったとは主張していないのであるが、原判決が援用する乙三〇号証によれば、生金株式会社への返済は順調に行なわれており、「返済に迫られて」いたとは到低首肯することはできない。乙三〇、三一号証によれば、生金(株)は利息月三分、二ケ月分の利息天引により貸付を行なっており、それは利息制限法を大幅に上回る利息であるが、債務者は順調に利息を支払っており、生金(株)にとってはまことに良いお客であり、従って生金(株)が一五〇万円の返済を迫るはずがないのである。また訴外組合からの借入日は、昭和四二年四月一七日頃であるから、当然二月か三月頃借入れの交渉をしていたと思われるが、それに対し松井悦太郎からの借入れ日は昭和四一年一一月四日であり、根抵当権を設定した債権者(それも二番根抵当権である。一番根抵当権は極度額一五〇万円にすぎない)が、貸付後二、三ケ月後に債務者に対し返済を迫るはずがないのである。如何に自由心証主義とはいえ、全く経験則に反する違法なものといわざるを得ない。

以上、原判決は破毀を免れないものである。

以上

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